Wyrd

概要

人の心がその存在を望むことで定義づけられ、実在が確立される世界の化身、精霊。
実体を持たず、見ることも触ることもできず、ともすれば架空の存在と見なされてしまう精霊と繋がりを持ち、世界の一部を改変する力を持つ青目の一族、セルウォス家。
この世に存在するあらゆる書物を蔵書として保有する、孤島の図書館に住まう青髪の一族、ウェッセ家。
同じ祖を持ち四千年双子であり続けた青と青と家の両当主の子、精霊に触れる力を持つ世界で唯一の青髪青目、シーセ・セルウォス。
シーセの呼び声に答え人の形になり、人と精霊との繋がりを生み出した青と青の祖の妻、はじめて人として生きることを選んだ初代精霊と同じ名を持つ少女、スウ・ウェッセ。
惹かれ合った二人と、二人を取り巻く者達とで綴られる、二人が生まれてから存在を終えるまでの物語。



Wyrd各章粗筋

・冒頭部のみで、各章の終盤には触れていません
・次章の冒頭として、前章の終盤の展開が書かれている場合があります
・登場する名前は主要人物の一部に絞っています



《WyrdEP1-1》

人の心を触媒に世界の真理が像を結んだ存在、精霊を信仰するとある王国。
そこに住まう、精霊の力を借りることができる「青目」の一族、セルウォス家の当主は神子と呼ばれ、彼らもまた信仰の対象であり、国王と共に民を導く存在でもあった。
次代の神子シーセは誰からも愛される心優しい子供で、両親と血の繋がらない兄、同い年の分家の子供たちと温かく幸せな日々を送っていた。
だがそんな五歳のある日、突然母が姿を消し、父から「母は死んだ」と聞かされる。
父と兄は母の死の真相を探るためと家を離れ、シーセは母方の祖父が住む孤島へと預けられることになった。
「青目」と対をなす「青髪」のウェッセ家が治めるその島は、あらゆる知識が集積された国一番の図書館であり、その叡智を守るため、特別な許可なくしては出入りが許されない土地だった。
友との別れの挨拶すら儘ならないまま島に渡り、母を喪った悲しさや慣れない土地での心細さから図書館の隅でひっそりと泣きじゃくるシーセの前に、突如として同じ年頃の少女が現れる。
祖父によれば「精霊が人の形を成したもの」であるらしいその少女をシーセはスウと名付け、二人は兄妹として暮らし始める。
人としての存在を始めた頃は希薄な感情と自我しか持たなかったスウだったが、シーセと触れ合うなかで心を育み、甘え上手な明るいお転婆娘になっていく。
振り回されながらも楽しい日々を過ごすうちにシーセも笑顔を取り戻し、二人は互いに、淡い恋心を抱いていくのだった。

《WyrdEP1-2》

セルウォス家の分家、アシーナ家の一人息子イービスは、従兄弟であり別の分家の一人息子であるツァイアを相棒に、屋敷近くのスラム街に入り浸っていた。
自分の立場や権力に疑問を持ち、間違いなく地位に甘えていながらも反発してしまう16歳のイービスはしかし、人を従え指揮して戦う武人の家、アシーナ家の跡取りとしての才覚を発揮し、スラム街で知り合った少年少女とグループを組んで義賊的な活動を行っていた。
ツァイアがスラムで保護したという精霊の少女、エアと恋仲にもなり、自分でも説明しがたいもやもやした感覚を抱えながらも仲間たちと青春を謳歌するイービス。
そんなある日、彼らのもとに行方知れずになっていたセルウォス家の次期当主、イービスとツァイアの未来の主君にあたるシーセが姿を表す。
シーセは、母の仇であり、妹として育った少女を連れ去った存在でもあるペリオスという男を追っているのだという。
初めて出会ったシーセの戦闘力の高さを目の当たりにし興奮したイービスはシーセをグループに勧誘し、シーセもまたイービスたちに調査の協力を求める。
円満に協力関係を結べたかに見えた両者だが、その晩ツァイアはシーセを連れ出し、イービスたちのグループとライバル関係にある、別のグループのリーダーと引き合わせる。
そこにいたヒースという名の少年は、イービスと同じ外見をしていた。
ヒースは、産まれたその日に捨てられ、存在を無かったことにされたイービスの双子の弟であり、ツァイアはスラム街でイービスとは別行動をしている際に偶然ヒースと出会い、互いの目的の為に手を組んだのだという。
ヒースの目的は、自分を捨てた両親と、なにも知らずにのうのうと育った兄への復讐。
ツァイアは殺された婚約者の手掛かりを探すため、物心ついたときから親友として過ごしてきたイービスを裏切り、何食わぬ顔をしながら二つのグループ両方の参謀役を務めていたのだ。
そしてツァイアは、シーセにもイービスを見限る理由があるはずだと言い、自分とともにヒースの側につくよう説得する。
幼い頃共に過ごした思い出をすべて忘れ去られ、交わした約束も反故にされたシーセは、その提案に頷いた。



《WyrdEP2》

闇ですらない無が広がる次元の狭間にポツリと浮かんだ図書館で、一人の少女が目を冷ます。
記憶を失っていた彼女が辛うじて覚えていたのはスウという自分の名前、物語の精霊としての自分の能力、星空の精霊という別称、そして顔も名前も思い出せない大切な人に「必ず迎えにいくから生きて待っていてくれ」と約束されたことだけだった。
時間の流れない図書館で、スウは13歳の少女のまま、何百年何千年と約束の相手をたった一人で待ち続ける。
物語の精霊であるスウは、記された物語の世界を作り出し、その中に入り込むことができた。
孤独を癒すため、物語の世界で住人たちと戯れるスウ。
親しくなった登場人物が死んでしまう筋書であることを知っていたスウは、友人を救うため本には書かれていなかった展開を作り出す。
だがそれによって筋書きから逸れた物語は、世界の滅びへと進んでしまった。
目の当たりにした悲劇に物語の世界を飛び出し図書館へと戻れば、本来の筋書通りの本がそこにある。
展開を変えてしまう直前のページを開いて世界を作り直せば、そこには、皆が無事だった頃の幸せな世界があった。
だが、本来の登場人物ではないスウのことを知る者は一人もいなかった。
何度でもやり直せるが、一度でも本のページを遡ればその度に自分がいなかったことになる、空想の世界。
どんなに人と笑顔を交わしても虚しい一人遊びでしかないことを突き付けられたスウは、次第に心を閉ざしていく。
誰とも親しくならず、誰も救わず、それでも一人ぼっちでなんの音もしない図書館に居ることにも耐えられず物語の世界という幻想を作り出し続けるスウは、ただただ異界の知識を収拾していくことだけを慰みにしていった。



《WyrdEP3》

空想の世界を渡り歩き、あらゆる魔術に精通した星空の賢者、次元の狭間の図書館で永遠とも思える時を生きる物語の精霊スウは、終わりの見えない孤独に耐えかね己の死を望んだ。
人ではない自分を、自らの領域である物語の世界ででも殺しきることができる存在を求めたスウは、彼ならばと見定めた相手に近付き、敢えて親しくなってから裏切ることで自分に殺意を向けさせようとする。
しかし彼は、友達を傷付けることはできないと戦うことを拒否した。
彼の涙に打ちのめされたスウは彼を救うために行動を開始するが、その過程で無関係の村が一つ炎に包まれてしまう。
数百年の幽閉の後、村の焼け跡に降り立ったスウは、焼け死んだ一人の子供の魂が閉じ込められた宝玉を見つけ、使役していた式神を同化させることで微睡んだまま現世に縛り付けられていた子供に実体を与える。
目を覚ました彼はフェイと名乗り、村が焼け落ちたのは自分のせいなのだと泣いて詫びるスウを責めることなく、一緒に連れていって欲しいと訴える。
フェイは、目の前で泣いている女の子がいる、だったらそれを泣きやませたいと、そう考えることのできる真っ直ぐさをもった少年だった。
フェイはスウを「お姉ちゃん」と呼び、スウもそれを受け入れる。
二人は姉と弟として、その世界での旅を始めるのだった。



《WyrdEP4》

物語の精霊スウと、彼女に純な初恋を抱きながらも彼女を姉と呼び慕うフェイの二人は、次元の狭間の図書館で暮らしながら物語の世界を渡り歩いていた。
永遠にも等しい時間のなかでスウが抱えてしまった幾つもの傷が癒え、今よりもっと心のからの笑顔が見たいと考えるフェイは、スウが近付きたがらない「Pitiful Phantoms」というタイトルの物語へ行ってみたいとねだる。
そこは、スウが初めて物語のなかで死を迎え、自分が死ねないことを悟った世界だった。
今度は自分も一緒だから大丈夫だと拳を握るフェイの熱意に折れたスウは、もう一度「Pitiful Phantoms」の世界に旅立つことを決め、かつて自分を殺した相手である主人公羽屡と再び出会う。
スウは、羽屡に憎しみを向けられる切っ掛けとなった事件に真っ向から向かい合い、本心を見せることで羽屡に矛を収めさせる。
一つの過去を乗り越え、羽屡の元を離れるスウとフェイ。
そんな二人の前に、二人と同じく、記された物語には存在しなかった筈の存在が現れる。
名前を名乗りたがらず口も効きたがらない謎の少年はしかし、その存在に希望を見出だしたスウの「ともに来てほしい」の言葉には従う。
彼を知りたがるスウ、憧れのお姉ちゃんを突然現れた男に取られたと敵意を燃やしながらも心を閉ざした人間を放ってはおけないフェイに押され、少年はしぶしぶ自分の名をシーセと名乗る。
彼は暗殺者で、自分と親しくなった存在は皆死んでしまうのだという。
自分のことは人間ではなく人形として扱い一線を引いて欲しいと望むシーセだったが、スウは死ねない自分を殺せるものなら殺して見せろと、フェイは自分はどうせもう死んでいると答え、それを拒絶する。
挨拶をすれば返事を返してくれるようになってきたあるとき、スウが戦闘で傷を負う。
遅れて駆け付けたシーセは、スウの怪我を見ることなくその場所と程度を言い当てる。
シーセは、自分はずっと誰かの痛みを感じてきた、その誰かと出会うために死ぬことを許されなかったのだと語った。
誰かを殺してまで生き延びたくないと思っていても、いつも気が付けば足元に死体が転がっていた、この手に血の付いた凶器を握っていた。
何度己の死を望んでもそれを叶えられなかったその理由を知るために、それまではともにいようと、シーセはスウに手を差しのべる。



《WyrdEP5-1》

次元の狭間の図書館に暮らし、物語の世界を旅していたスウ、フェイ、シーセの三人は、突如見知らぬ土地に転移させられる。
降り立った地が自分の領域ではない、物語の精霊としての能力で作り出した世界ではないことを直感するスウ。
辺りを警戒する三人は、森の中で何者かに追われる少年たちの存在を察知する。
深く動揺しながらも弾かれるように駆け出すシーセを、見失わないのがやっとになりながらスウとフェイが追い掛ける。
怪しい人影が少年たちに攻撃を仕掛けた次の瞬間、シーセが人影に斬りかかり、シーセを見た人影はこんなところで再会するとはと嘲るように笑う。
シーセがキルという名を知っていたその人影は、ボスにあたる存在にこの事を報告したらシーセを迎えに来る、と告げて引き上げる。
襲撃者が去り、当たりが静寂に包まれたとき、三人の少年はシーセの昔の名を呼ぶ。
彼らは、シーセが自分のせいで死なせてしまったと語っていた三人の兄だった。
研究所で生まれ育ち番号で呼ばれていた四人は、今は人としての名があるのだと、それぞれイービス、ヒース、ツァイアという名を名乗る。
会いたかった、と笑顔を交わそうとしたそのとき、イービスがその場に崩れ落ちる。
弟たちを庇ってキルの使用する毒を喰らったのだと処置を開始するシーセに、兄が死に瀕している事実に直面し冷静さを失ったヒースは、何故あんな怪しい輩の毒への適切な対処法を知っているのか、お前は何者だと食って掛かる。
そこに追い付いたスウとフェイが割ってはいり、ツァイアの先導の元、一行は彼ら三人と二人の女性が暮らしているのだという屋敷へとイービスを運び込む。

《WyrdEP5-2》

人形、と呼ばれる暗殺者には、逆らうことのできない絶対の支配者がいた。
支配者エディグの命により、シーセはスウとフェイ、更に三人の兄と二人の精霊の女性を人質として生け捕りにし、組織に戻る。
何も見ないでほしいと願ったシーセの手によって深い眠りについていたスウは、精神が迷い込んだ先で「必ず迎えにいくから生きて待っていてくれ」と約束した相手、ともにあの図書館で育った「シーセ」との再会を果たしていた。
地下牢に捕らえられた人質一同は、檻の向こうのシーセに対し、裏切ったのか、何を考えているのかと言葉を投げ付けるが、シーセは何も答えない。
変わって一行にシーセの思いを語ったのは、シーセの父で此処に幽閉されているのだというゼバト、シーセに対し抵抗して皆殺しにされるか従うかを選べという伝言を持ってきた張本人であるキル、そしてシーセを「私の可愛い人形」と呼ぶ男、エディグだった。
彼らは皆、シーセが一行を襲い連れ去ったのは、こうすることでしか一行を守れなかったからだ、シーセは自分がどう思われても構わないから皆を守りたいと考えているのだと口を揃えるが、それを痛ましく思い無力を詫びるゼバトに対し、キルは嘲笑しながら、エディグはただただ微笑みながらシーセは実に愚かだと語る。
組織における人形の役割は、暗殺者として指定された人間を殺すことだけでなく、男娼として客を取り、また組織の慰み者として、感情や衝動の捌け口としてあらゆる暴力を無抵抗で受け入れることでもあった。
エディグが出した、人形として組織に戻り、家族を人質に差し出すのなら彼らに危害を加えないという条件に従い、シーセは鉄格子越しの家族の前で理不尽な暴力に身を委ねる。
骨を叩き折られても、数人がかりで女の代わりをさせられても悲鳴すら上げないシーセに、初めはシーセに対して不信感や怒りを覚えていた人質も無力感と罪悪感を募らせていく。
エディグは穏やかに、全ては大切なものを守るためですよ、大切でなければこうはならなかったのに、と人形と檻の中の人質に対して囁くのだった。

《WyrdEP5-3》

シーセの手引きにより組織のアジトから脱走する一行だったが、エディグにより肉体を支配される呪いを受けていたシーセは自分は行けない、ありがとうと最愛の者達に別れを告げる。
駆け付けたペリオスに連れられ、一行はシーセやイービスらが生まれ育った場所である研究所に身を潜める。
前世でなにが起こったのかを知っているペリオスからの最初で最後のキスによってスウは目を覚まし、スウを中心としてシーセを助け出すために動き出す一行。
一方アジトに留まったシーセは、あれほど憎く思っていたシーセを何故殺せなかったのかと呆然とするエディグにそっと寄り添い、二人は互いに世界で一番貴方を憎んでいると一片の嘘偽りもなく語りながらも、そうであるからこそ互いを誰より深く理解し、全てを曝け出せる唯一無二の理解者同士として心を通わせる。
未だ幽閉状態にあるゼバトも息子の「みんなと一緒にいきたい」という意思、元親友だったエディグの胸の内を知り、エディグと戦うための計画を進めていく。
各々が新たな決意と向き合おうとするなか、誰の敵にも味方にもなり切れないキルは苛立ちを募らせるような素振りを見せるのだった。

  • 最終更新:2017-05-13 16:47:40

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